【精神科在宅訪問診療】東京23区、埼玉県南部|さくらひだまり訪問クリニックさくら訪問クリニック

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うつ病・双極性障害

うつ病・双極性障害について

 

🩺うつ病の症状 

うつ病は、強い気分の落ち込みや無気力、興味の喪失が特徴です。日常生活や仕事に支障をきたす場合があります。 

 

主な症状 

  • 気分の落ち込み、悲しさ、虚しさ 
  • 趣味や楽しみに興味が持てない 
  • 倦怠感や疲労感、動けない、集中力低下 
  • 睡眠障害 
  • 食欲の変化 
  • 自責感や罪悪感  
  • 死にたい気持ち 

 

 

🩺双極性障害の症状 

双極性障害は、気分が高まる躁状態と、気分が落ち込むうつ状態を繰り返す病気です。気分の変動が激しく、生活リズムや仕事、人間関係に影響を与えることがあります。 

 

主な症状 

  • 躁状態:活動が活発、睡眠が少なくても元気、判断力の低下 
  • うつ状態:気分の落ち込み、無気力、不眠、集中力低下 
  • 躁とうつの周期的な繰り返し 

 

 

🚗訪問診療のメリット 

通院が難しい方でも、ご自宅で安心して診療を受けられることが訪問診療の最大の利点です。 

定期的に医師が訪問することで、薬の管理や症状の確認、生活支援が受けられます。 

ご家族も一緒にサポートを受けられるため、孤立感を減らし安心して療養できます。 

 

訪問診療でできること 

  • 定期的な医師の訪問による症状確認 
  • 薬の管理・調整 
  • 日常生活のサポート(睡眠・食事・生活リズム管理) 
  • ご家族様、支援者様との連携による再発予防 

 

 

🌿当院の診療方針 

・患者様一人ひとりに合わせたオーダーメイドの診療 

・薬物療法だけでなく、生活リズムや心理社会的サポートも重視 

・ご家族様、支援者の様への相談や指導を含めた包括的ケア 

 

 

うつ病や双極性障害は、早めの対応が回復のカギです。 

悩みを抱え込まず、ぜひご相談ください。

うつ病・双極性障害の概要

 

「気分がひどく落ち込んで、ベッドから起き上がれない」

「これまで楽しめていたことに全く興味がわかない」

「極端に気分が高揚して、全く眠らなくても活動し続けてしまう」

 

このような気分の大きな波に翻弄され、日常生活や社会生活に支障をきたす疾患を「気分障害」と呼びます。代表的なものが「うつ病」と「双極性障害(躁うつ病)」です。

これらは決して「甘え」や「心の弱さ」ではなく、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることによって起きる「脳の疾患」です。本ページでは、それぞれの疾患の医学的な概要から、正確な検査・診断のプロセス、専門的な治療法、ご自宅での療養ポイント、ご家族の対応法、そして利用できる福祉サービスまでを詳しく解説いたします。

 


 

1. うつ病と双極性障害の概要(メカニズムと違い)

気分障害は、大きく「うつ病」と「双極性障害」に分けられます。両者は症状の一部(うつ状態)が共通していますが、メカニズムや治療方針が全く異なるため、正確な鑑別が極めて重要です。

疾患名 主な特徴と症状 脳内の状態・メカニズム(推測)

うつ病

 

(大うつ病性障害)

慢性的な気分の落ち込み、意欲・興味の減退、不眠または過眠、食欲不振、強い自責の念(自分が悪いと思い込む)が2週間以上毎日続きます。「鉛のように身体が重い」といった身体症状を伴うことも多くあります。 セロトニンやノルアドレナリンなど、意欲や活力を司る脳内物質が枯渇している状態。心身のエネルギーが空っぽの「バッテリー切れ」に例えられます。

双極性障害

 

(躁うつ病)

極端に気分が高揚し、活動的になる「躁(そう)状態」と、うつ病と同じ「うつ状態」を波のように繰り返します。躁状態では、多額の浪費、睡眠不要感、誇大妄想(自分は特別だと思い込む)などが現れ、周囲とのトラブルに発展しやすくなります。 脳の神経細胞の興奮を鎮める機能が低下し、気分のコントロール(アクセルとブレーキ)が効かなくなっている状態と考えられています。

 

2. 検査と診断のプロセス

気分の落ち込みが単なる「一時的なストレス反応」なのか、「治療が必要な疾患」なのか、あるいは「他の身体の病気」によるものなのかを慎重に鑑別します。

 

① 医療面接(問診)と生活史の聴取

ご本人から現在の症状を伺うとともに、過去に「異常に気分が高揚して活発になった時期(躁状態)」がなかったかを丁寧に確認します。ご本人は躁状態を「調子が良かった時期」と誤認していることが多く、ご家族からの客観的な情報提供が診断の大きな助けとなります。

 

② 身体疾患の除外(血液検査など)

「うつ状態」は、精神疾患だけでなく内科的な病気でも引き起こされます。

 

甲状腺機能低下症(橋本病など)

ホルモン不足により、うつ病と全く同じような無気力・動作緩慢が生じます。

重度の貧血やビタミン欠乏、更年期障害

強い倦怠感や気分の落ち込みを引き起こすため、採血等で器質的な異常がないかを確認します。

 

③ 心理テスト・評価尺度

客観的な重症度を測るため、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)や、自己記入式のSDS(うつ性自己評価尺度)などを用いることがあります。

 

④ 診断基準(DSM-5 / ICD-11)

身体疾患が除外された上で、国際的な診断基準に照らし合わせます。うつ症状が2週間以上持続し、社会的・職業的機能に明らかな障害をもたらしている場合などに診断が確定します。

 


 

3. 専門的な治療法(お薬と環境調整)

治療の柱は「十分な休養(環境調整)」と「薬物療法」です。うつ病と双極性障害では、処方されるお薬が根本的に異なります。

 

・うつ病の薬物療法(エネルギーを補充する)

抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)

脳内のセロトニンやノルアドレナリンを増やし、意欲や気分の落ち込みを底上げします。効果が現れるまでに2〜4週間ほどかかるため、焦らず継続することが重要です。

 

・双極性障害の薬物療法(気分の波を平らにする)

双極性障害の患者様に抗うつ薬を単独で処方すると、急激に躁状態が引き起こされたり(躁転)、躁とうつを急激に繰り返す(ラピッドサイクル)危険性があります。

 

気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)

気分の極端な波を抑え、再発を予防する治療のベースとなるお薬です。

非定型抗精神病薬(ルラシドン、クエチアピン、ジプレキサ、アリピプラゾール、レキサルティなど)

強い躁状態を速やかに鎮めたり、うつ状態を持ち上げたりする目的で使用されます。

 

・精神療法/心理社会的アプローチ

お薬で状態が安定してきた回復期に、再発予防を目的として「認知行動療法(極端な思考の癖を修正する)」や「対人関係療法」などを取り入れ、ストレスへの対処能力を高めていきます。

 


 

4. 療養上の注意点(ご自身のセルフケア)

 

「重大な決断」は先送りする

うつ状態の時は悲観的な思考に支配されています。「会社を辞める」「離婚する」といった人生の重大な決断は、治療が進んで本来の自分を取り戻すまで絶対に保留にしてください。

「休むこと」が一番の治療と割り切る

焦りや罪悪感から無理に動こうとすると、回復が遅れます。今は「心身のギプス」をつけている状態だと考え、ひたすら睡眠と休息をとることに専念してください。

薬の自己中断をしない

少し調子が良くなったからと急に薬をやめると、激しい離脱症状や深刻な再発(リバウンド)を招きます。減量や中止は必ず主治医の指示に従ってください。

 


 

5. 周囲の方・ご家族の適切な対応法

ご家族のサポートは回復に不可欠ですが、誤った接し方はご本人を追い詰めてしまいます。

 

「頑張れ」と励まさない(うつ病の場合)

エネルギーが枯渇している状態での「頑張れ」は、「今のままではダメだ」という強烈なプレッシャーになり、自責の念を深めます。「十分に頑張ってきたんだから、今はゆっくり休もう」と声をかけてください。

腫れ物扱いせず、普段通りに接する

過剰な心配や同情は、ご本人に「家族に迷惑をかけている」と感じさせます。できるだけ普段通りのトーンで、温かく見守る姿勢が理想的です。

躁状態のトラブルを一人で抱え込まない(双極性障害の場合)

躁状態では、ご本人は「自分は絶好調だ」と感じているため、治療を拒否することがよくあります。多額の借金や対人トラブルが起きる前に、早急に医療機関や保健所へご相談ください。

SOSのサイン(希死念慮)を見逃さない

「消えてしまいたい」「生きていても仕方がない」といった言葉が出た場合は、絶対に「そんなこと言わないで」と否定したり、話を逸らしたりしないでください。「そこまで辛いんだね」と受け止め、速やかに主治医にご連絡ください。

 


 

6. 利用可能な福祉サービスと支援制度

治療が長期にわたる場合、経済的な不安や生活の立て直しのために、様々な公的支援を活用することができます。

 

自立支援医療制度(精神通院医療)

指定の医療機関や薬局での外来診療(訪問診療を含む)や薬代の自己負担額が、原則3割から1割に軽減される制度です。

精神障害者保健福祉手帳

疾患により日常生活や社会生活に制限がある場合、申請により交付されます。税金の控除、公共交通機関の割引、障害者枠での就労支援などが受けられます。

障害年金

症状が重く、仕事や日常生活に著しい支障が出ている場合、生活を支えるための年金を受給できる可能性があります。

訪問看護ステーションの利用

ご自宅に精神科に特化した看護師が定期的に訪問し、服薬管理や生活リズムの調整、ご本人・ご家族の心理的サポートを行います。

 


 

外出が困難な方へ:「精神科訪問診療」という選択肢

うつ病の最も辛い時期には、「ベッドから起き上がる」「服を着替える」といった日常動作すら困難になります。そのような状態で、病院の待合室で長時間待つことは、到底不可能なハードルです。

当院では、心身のエネルギーが枯渇し、通院ができなくなってしまった方のために、ご自宅へ直接伺う精神科訪問診療を行っております。

ご自宅という最も安心できる安全基地で、寝間着のままでも構いません。まずは医師がご自宅へ赴き、状態を拝見してお薬を調整することで、ゆっくりと回復に向けた第一歩を踏み出すことができます。ご本人が話せない場合は、ご家族からのご相談からでも対応可能です。

 

「病院に行かなければならないのに、身体が動かない」——そんな時はご自身を責めず、ぜひ当院の訪問診療をご利用ください。穏やかな日常を取り戻すまで、私たちが共に歩んでまいります。

うつ病治療(臨床実践レベル)

1. 治療の前提:診断と評価

 

診断枠組み

DSM-5-TR の大うつ病エピソード(9症状中5つ以上、2週間以上、うち抑うつ気分または興味・喜びの喪失を含む)が基本。ただし臨床上重要なのは**「うつ状態」の原因分類**です。

 

必ず除外・鑑別すべきもの

 

カテゴリ 具体例
身体疾患 甲状腺機能低下症、貧血、ビタミンB12・葉酸欠乏、Cushing症候群、膵癌などの悪性腫瘍、睡眠時無呼吸、脳血管障害、Parkinson病、認知症の前駆症状
薬剤性 ステロイド、インターフェロン、βブロッカー、レセルピン、一部の抗てんかん薬
物質関連 アルコール(最重要)、ベンゾジアゼピン、覚醒剤離脱
双極性障害の抑うつエピソード 最大の落とし穴。抗うつ薬単剤は躁転・混合状態・ラピッドサイクリング化を招く

 

双極性の示唆:

発症年齢の若さ、反復性、非定型特徴(過眠・過食・鉛様麻痺)、精神病症状、家族歴、抗うつ薬への急速反応や不安定な反応、産後発症。MDQ、BSDS などのスクリーニングを併用。

 

重症度・経過の定量評価(measurement-based care)

  • 他覚評価:
  • HAM-D17(≤7 寛解、8–13 軽症、14–18 中等症、19–22 重症、≥23 最重症)、MADRS
  • 自記式:
  • PHQ-9、QIDS-SR、BDI-II
  •  
  • 初診時だけでなく 2週ごとに再評価して用量調整の根拠にする。これを行うだけで寛解率が有意に上がるというエビデンスがあります。
  •  

自殺リスク評価

希死念慮の有無だけでなく、具体性(計画・手段・準備)、致死性、過去企図歴、衝動性、アルコール、社会的孤立、絶望感を評価。企図歴は最強の予測因子。C-SSRS などの構造化ツールが有用です。

 


 

2. 治療の全体設計

 

病期の考え方(2025年ガイドラインの4段階)

 

初期治療 → 後続治療 → さらなる段階の治療 → 維持期治療

 

従来の「急性期・継続期・維持期」を、治療の意思決定の流れに沿って組み替えた形です。重要な指摘として、1剤目が無効なときすぐ強化に走るのではなく、まず効果判定の妥当性・副作用・服薬アドヒアランス・診断そのものを再確認することが強調されています。

 

治療目標

  • 反応(response):
  • 評価尺度スコア50%以上の減少
  • 寛解(remission):
  • HAM-D17 ≤7 など。残遺症状(不眠、疲労感、認知機能低下、興味減退)が残ると再発率が3倍以上になるため、「よくなった」ではなく寛解を目標にする
  • 回復(recovery):
  • 寛解が4〜6か月以上持続
  •  
  • 最終目標は症状消失ではなく 機能回復(社会・職業・対人機能)
  •  

難治性抑うつ(DTD)という新概念

2025年ガイドラインの目玉の一つ。従来の治療抵抗性うつ病(TRD=十分量・十分期間の抗うつ薬2剤以上に反応しない)は薬剤反応性に焦点が狭すぎるとして、薬剤抵抗性に加えて、機能回復の遅れ、副作用による治療継続困難、頻回の再発までを包括する広い臨床概念として DTD が導入されました。

 

「難治」に見えるケースの多くは**偽性難治(pseudo-resistance)**であることに注意:

 

  • 用量不足・期間不足(4〜8週未満での判定)
  • アドヒアランス不良
  • 診断の誤り(双極性、パーソナリティ障害、発達特性、PTSD、慢性疼痛)
  • 併存症の未治療(不安症、アルコール、睡眠時無呼吸、甲状腺)
  • 維持因子の放置(職場ストレス、家庭内問題、経済問題)
  •  

 

3. 重症度別の治療方針

 

軽症

  • 抗うつ薬のプラセボに対する上乗せ効果は小さいため、一律の薬物療法は推奨されない
  • まず支持的精神療法、心理教育、環境調整、睡眠衛生、運動
  • 経過観察(watchful waiting)で改善しない場合に薬物療法や構造化精神療法を検討
  • 患者の希望、過去の反応歴、機能障害の程度を踏まえた共同意思決定
  •  

中等症〜重症

  • 抗うつ薬が推奨される
  • 薬物療法+精神療法の併用は単独より優れる(特に慢性・小児期逆境歴のある例)
  • 重症では入院・自殺予防を含む安全確保が優先
  •  

精神病性うつ病

  • 抗うつ薬単剤は不十分。抗うつ薬+抗精神病薬、またはmECT を第一選択として検討
  • 緊張病(カタトニア)を伴う場合はベンゾジアゼピン(ロラゼパム)と mECT

 

4. 薬物療法の詳細

 

主な薬剤クラスと薬理学的特徴

 

SSRI

薬剤 特徴 注意点
エスシタロプラム 最も選択性が高い、吐き気の副作用あり 用量依存性QT延長。成人20mg、高齢者10mgが上限
セルトラリン CYP阻害が弱く相互作用が少ない、軽度のDAT阻害 下痢がやや多い
パロキセチン 抗コリン作用あり、CYP2D6を強力に阻害 離脱症状が最も強い。半減期が短い。妊娠初期の心奇形リスク
フルボキサミン σ1受容体作動、CYP1A2/2C19を強力に阻害 テオフィリン・チザニジン併用禁忌。悪心が多い

 

SNRI:

デュロキセチン(疼痛併存に有利)、ベンラファキシン(低用量ではSSRI様、高用量でNA再取り込み阻害、離脱症状が強い)、ミルナシプラン。共通して血圧上昇、排尿困難に注意。

 

NaSSA(ミルタザピン):

α2遮断+5-HT2/5-HT3遮断。不眠・食欲低下・悪心に有利、性機能障害が少ない。体重増加・鎮静が問題。低用量ほど抗ヒスタミン作用が優位で眠気が強い。

 

S-RIM(ボルチオキセチン):

SERT阻害+5-HT1A作動、5-HT3/5-HT7/5-HT1D拮抗。認知機能(処理速度・実行機能)改善、性機能障害・離脱症状が少ないとされる。

 

※ブプロピオンは日本では未承認。

 

効果・忍容性のエビデンス

Cipriani らの21薬剤ネットワークメタ解析(Lancet 2018)では、すべての抗うつ薬がプラセボに優る一方、薬剤間差は小さい。相対的に効果が高いのはエスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンなど。忍容性ではエスシタロプラム、セルトラリンが良好。実臨床では「効果の順位」より、副作用プロファイル・併存症・相互作用・過去の反応歴で選ぶのが合理的です。

 

用量と効果判定

  • 少量開始、1〜2週で常用量へ
  • 効果判定は十分量で4〜8週。ただし2週時点で20%以上の改善がなければ最終的な反応の可能性は低く、早期の方針変更を検討する
  • 初期増悪や賦活症候群(不安、焦燥、不眠、易刺激性、アカシジア)に注意。特に25歳未満では自殺関連事象のリスクが上がるため、開始2週は密な観察を

 

主な有害事象の管理

  • 消化器症状:開始1〜2週で軽快することが多い。食後投与、緩徐増量
  • 性機能障害:頻度が高く、アドヒアランス低下の主因。ミルタザピン、ボルチオキセチン、トラゾドンへの変更や減量
  • 低ナトリウム血症/SIADH:高齢者、利尿薬併用、女性、低体重で高リスク。開始後2〜4週の Na 測定
  • 出血傾向:血小板セロトニン枯渇。NSAIDs・抗血小板薬併用でリスク増、必要ならPPI併用
  • QT延長:エスシタロプラム、シタロプラム、三環系
  • セロトニン症候群:トラマドール、トリプタン、リネゾリド、MAO阻害薬(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)併用時
  • 中断症候群:めまい、感覚異常(”brain zaps”)、不安、インフルエンザ様症状。半減期の短い薬剤で強い。**漸減は最後の低用量域ほどゆっくり(hyperbolic tapering)**が理にかなう

 

5. 効果不十分時の戦略

 

判断は順に、①診断・アドヒアランス・用量の再検討 → ②増量 → ③切り替え → ④増強 → ⑤併用。

 

切り替え(switching)

同一クラス内でも異なるクラスへでも効果に大差はないというエビデンス(STAR*D)。副作用が理由なら同クラス内、効果不十分なら異クラスへ、が実務的。クロスタパーが基本(MAO阻害薬関連はウォッシュアウト必須)。

 

増強療法(augmentation)

手段 用量の目安 備考
アリピプラゾール 3mg/日(最大15mg) 日本で承認。エビデンス最も豊富。アカシジア、体重増加
ブレクスピプラゾール 1–2mg/日 「既存治療で十分な効果が認められない場合」に承認。アカシジアがやや少ない
リチウム 血中濃度 0.4–0.8 mEq/L 古典的だがエビデンスあり。自殺予防効果が示唆される数少ない薬剤。腎・甲状腺機能モニタ
T3(リオチロニン) 25–50 µg/日 STAR*D で有用。甲状腺正常でも効果
クエチアピン徐放 — 海外では単剤・増強でエビデンス。日本の適応は双極性うつ病
抗うつ薬併用 ミルタザピン+SSRI/SNRI など エビデンスは限定的。多剤化のデメリットと天秤に

抗精神病薬増強は遅発性ジスキネジア、代謝異常のリスクがあるため漫然と続けないこと。有効なら効果と副作用を定期的に再評価します。


 

6. 神経調節療法

 

修正型電気けいれん療法(mECT)

  • 最も効果の高い治療。反応率60〜80%、精神病性うつ病・緊張病・重度の食行動障害・切迫した自殺念慮・妊婦では第一選択になり得る
  • パルス波治療器、麻酔+筋弛緩下。週2〜3回、計6〜12回
  • 電極配置:両側性は効果が速いが認知障害が強い。右片側超短パルスは認知面で有利
  • 副作用:一過性の逆行性・前向性健忘、頭痛、筋肉痛。再発率が高く、維持ECTまたは薬物による維持療法が必須
  •  

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)

  • 日本では2019年から保険適用。中等症以上で1剤以上の抗うつ薬に十分な効果が得られないTRDが対象
  • 標準プロトコル:左DLPFC への 10Hz 高頻度刺激、1日3000パルス、週5日×6週(計30回)
  • けいれん誘発は稀(<0.1%)、認知機能への悪影響がないのが大きな利点
  • **iTBS(間欠的シータバースト)**は3分程度で標準rTMSに非劣性(THREE-D試験)
  • 加速プロトコル(SAINT/SNT):機能的結合に基づく個別ターゲティングで1日10セッション×5日。米国では機器承認済み

 

7. 急速作用型・新規治療

 

  • ケタミン/エスケタミン:
  • NMDA受容体拮抗を起点にAMPA受容体活性化→BDNF/mTOR経路→シナプス新生。数時間〜24時間で効果が出るのが従来薬と決定的に違う点。希死念慮の急速低減にエビデンス。エスケタミン点鼻は米欧で承認、日本では未承認(静注ケタミンは適応外)。解離、血圧上昇、乱用リスクのため管理下投与が必要
  •  
  • デキストロメトルファン‑ブプロピオン配合剤:
  • NMDA拮抗+σ1作動を経口で。米国承認、日本未承認
  •  
  • ズラノロン:
  • 神経ステロイド、GABA-A受容体の陽性アロステリック調節。14日間の短期経口投与。米国では産後うつ病に承認
  •  
  • サイロシビン(COMP360):
  • 5-HT2A作動薬+心理的サポート。治療抵抗性うつ病の第3相試験が報告され規制当局の判断段階にあります。現時点では研究的治療で、日本では法規制上使用できません
  •  

8. 精神療法

 

技法 中核的機序 適応
認知行動療法(CBT) 認知の歪みの同定・再構成+行動実験 エビデンス最多。再発予防効果は薬物より持続的
行動活性化(BA) 回避行動の減少と正の強化の再獲得 CBTに非劣性で、より簡便・訓練負荷が低い
対人関係療法(IPT) 悲哀・役割変化・役割葛藤・対人欠如の4領域 対人的な誘因が明確な例
問題解決療法 具体的問題の構造的解決 プライマリケア、高齢者
マインドフルネス認知療法(MBCT) 反芻からの脱中心化 3回以上の再発例で再発予防のエビデンスが強い
力動的精神療法 無意識的葛藤、対象関係 慢性・パーソナリティ要因の関与例

 

日本では CBT は一定の要件下で保険適用(医師が実施、または看護師との共同で、16回を限度)。

 


 

9. 身体的・行動的介入

 

  • 運動療法:
  • ウォーキング/ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングに中等度の効果量。強度が高いほど効果が大きい傾向。補助療法として推奨度が上がってきています
  •  
  • 高照度光療法:
  • 2500〜10000ルクス、午前。季節性のみならず非季節性うつ病でも上乗せ効果
  •  
  • 睡眠:
  • 不眠は再発の予測因子であり治療標的。CBT-I の併用が有用。断眠療法は効果が速いが持続しない
  •  
  • 飲酒:
  • 治療反応を阻害する最大の生活因子の一つ。介入必須
  •  

 

10. ライフステージ・特殊集団(2025年ガイドラインで推奨度が明確に区別)

 

  • 児童・思春期:
  • 新規抗うつ薬は「選択肢のひとつ」という位置づけにとどまる。精神療法が第一。自殺関連事象のモニタリングを厳重に
  •  
  • 周産期:
  • 抗うつ薬は「弱く推奨」。未治療のうつ病自体が母児にリスクであることを踏まえた個別のリスク・ベネフィット評価が必要。パロキセチンは妊娠初期を避ける傾向。重症例では mECT も選択肢
  •  
  • 老年期:
  • 抗うつ薬は「強く推奨」。ただし低用量開始、低ナトリウム血症・転倒・抗コリン負荷・薬物相互作用に注意。認知症との鑑別(仮性認知症)と血管性うつ病の視点
  •  
  • 身体疾患合併:
  • がん、心疾患、脳卒中後、糖尿病。デュロキセチンは疼痛併存に、セルトラリンは心疾患合併例に使いやすい
  •  
  • 労働者のうつ病:
  • 2025年版で独立した章立て。休職判断、職場環境調整、段階的復職、リワークプログラム
  •  

 

11. 維持療法と再発予防

 

  • 寛解後、同一用量で最低6〜12か月継続(減量は再発リスクを上げる)
  • 反復性(2〜3回以上のエピソード)、残遺症状あり、高齢発症、重症、家族歴あり、慢性ストレス下では数年〜無期限の維持療法を検討
  • 生涯再発率は約50%(1回目後)→70%(2回目後)→90%(3回目後)
  • 再発予防では MBCT、CBT の維持セッションが薬物中止後の再発を減らす
  • 中止時は数か月かけた漸減と、再発初期徴候(early warning signs)のセルフモニタリング計画を共有
  •  

 

12. 日本の制度的支援

 

  • 自立支援医療(精神通院医療):外来医療費の自己負担が原則1割、所得に応じた月額上限
  • 傷病手当金:健康保険から標準報酬日額の約2/3、通算1年6か月
  • 精神障害者保健福祉手帳、障害年金
  • リワークプログラム:医療機関・地域障害者職業センター・企業内。復職後の再休職率を下げるエビデンスがあります
  •